2016年8月24日水曜日

心のファブリーズ


年に数回 白い手袋つ着けた女性が来店する
落ち着いた佇まいでいつも大きなツバの帽子をかぶっている そして座布団を持ち込み 持参の除菌スプレーをテーブルに散布して席につく そしてカバンからお箸を取り出して モーニングセットたべる

めったに来店しないのだけれど 潔癖症のお客さんは珍しいのとブルジョワジー漂う 女性なので僕はよく覚えている
潔癖症なのに外食出来るんだ と僕は思っていた

僕は潔癖症同士の対談が見てみたい 双方にとってお互いが汚い存在に映るのだろうか お互い潔癖症なんだからキレイな存在じゃないの 自分以外は駄目なんだろうけど 別に人それぞれ潔癖症であろうが僕には関係ないですね

目に見えないものを除菌する 手袋のマダムは一つミスを犯している そのモーニングセットとハート模様のカプチーノはこんなにも心がダーティーな僕が作っていると言うことをね
ある意味汚れてますよ そのモーニングセットは
書いてて悲しくなってきた
僕の心も除菌プリーズ

僕と友人オシゲちゃんと親友ヤマちゃんはよく鍋パーティをする 開催されるのはオシゲちゃんの家が多い
友人オシゲちゃんは友達思いの良い奴で 鍋を食べて酔っ払った僕達を家に泊めてくれたり お風呂まで入浴させてくれる

優しいオシゲちゃんはハートロッカーで不美人達のメシアでもある 男前なオシゲちゃんはいつも多数の女性とお付き合いをしている どんな穴でも入れるモグラスタイルが仇をなしオシゲちゃんのオシゲラバーズは奇天烈なフェイスに偏っている

そして鍋パーティをする時 オシゲラバーズの誰かが出現する事が多い
今回はパワータイプのライオネス飛鳥系の彼女が出現した ライオネス彼女はオシゲちゃんいわく「顔はブスだけど心は天使」だそうだ オシゲちゃんとライオネス彼女は高山VSドンフライ戦を二人で再現するくらいに仲が良い 勝敗は前記事に書いてあるので気になる方は読んでください

鍋パーティの中盤からライオネス彼女は参加した 優しい不美人な彼女は手作りのハンバーグとおにぎりを持ってきた
料理人の僕から見ても良くできたハンバーグだったし海苔で巻いたおにぎりは美味しそうだった
あんなにも「お腹が空いている」言っていたヤマちゃんはライオネス彼女の差し入れに手を付けなかった

仕事終わり電車に乗って鍋パーティに直行した僕にオシゲちゃんはお風呂を勧めてきた
「疲れお風呂で落としておいでよ」優しいオシゲちゃんの優しい言葉 僕はその言葉に甘えて入浴した

お風呂あがりでキレイでサッパリの僕を見てヤマちゃんは汚れた物を見る目で僕を見た
こう見えてもきれい好きな僕だ 毛むくじゃらなボディはパーフェクトウオッシュ済みだぜ なぜそんな目で僕を見る

鍋パーティを楽しみ 僕はヤマちゃんの車に乗り込み帰路に着いた
帰り道 車の中でヤマちゃんは言った
「ヴィアンお前よく食べれたな ライオネス彼女が握ったおにぎりよ」
「そら食べるよ お腹すいてるもん」ヱビスの缶ビールを飲みながら僕は言った
「ライオネス彼女はええ奴や それは俺も認めてる でもブス握ったおにぎりは食べれれへんわ せめて焼きおにぎりとか火を通してもらわんと無理やろ」
ヤマちゃんはまた汚物を見るような目でおにぎりを食べた僕を見て言った

コイツ最低だ そうだヤマちゃんは不美人に容赦のない男 不美人それが友人の彼女だとしても徹底的にポリシーを曲げない男
ブスの握ったおにぎりは食べれない 火を通して焼きおにぎりでギリギリのラインな男 しかしライオネス彼女が作ったハンバーグにも手を付けなかったのを僕は知っている

「あとヴィアン オシゲの家で風呂入ってるけどお前ちゃんと身体洗ってるんか?」ヤマちゃんはいぶかしげな顔をして僕に訊く
「当たり前やろ 見かけで判断するな 足の先までゴシゴシや」
僕の発言を聞いてヤマちゃんは呆れた様子で僕に言う
「ヴィアンお前何にもわかってないわ あの風呂ライオネス彼女も入ってるんやで ボディスポンジなライオネス彼女も使ってるやぞ あのスポンジは汚れてるのも同然や ヴィアンは身体洗ってるん違うんや むしろ身体汚してるんやぞ」

本当にNo more不美人スタイルを徹底してやがる ヤマちゃんの中ではスポンジに石鹸でも落ちない汚れが付いてるらしい

彼は潔癖症でもなんでもない 思いやりが欠如してるだけだ

あぁ僕にユニークな力が有れば出来るのに
彼の心にファブリーズ シュッシュッシュッ

2016年8月11日木曜日

痔のボラギニスト


先週の日曜日 店のマスターの知り合い お肉屋さんT君が来店した
お肉屋さんT君はヤンキー達のヒエラルキーの上位に位置する この田舎町の荒くれ者だ

お肉屋さんT君は三重県に旅行に行ってきたらしく お土産を持ってきた モーニングセットを食べながらマスターに「海鮮せんべい」を手渡した ちなみにマスターは煎餅とおかきが嫌いだ

T君はフォカッチャのサンドウィッチをたいらげ煙草を吸いながら珈琲を飲み干しギラリ鋭い目をして言った
「土産あげたから 今日はモーニング代いらんやろ」
ゆっくりと立ち上がり 配達用の箱バンに乗り込み去っていった

そして お肉屋さんの箱バンが駐車場から消え去った瞬間 マスターの怒涛の悪口 陰口 愚痴が溢れ出す
激しく愚痴るくらいなら 代金貰えば良いのに と思うかもしれないがマスターはヤンキーヒエラルキーの下層に属している為に上層に属するお肉屋さんT君にはお利口さんな首振りスタイルで居なければならない

お土産とはそういう風に渡すものではないですよね 嫌いな煎餅とモーニング代金との交換だ 新しいスタイルのお土産の渡し方を目の当たりにし怒れるマスターの横で僕は爆笑していた

マスターは毎年クリスマスにイチゴのケーキを焼く それは異性への手作りプレゼントではなくお肉屋さんTくんの為だ
忙しいクリスマスに作ったホールケーキはお肉屋さんT君の手に渡り 素揚げされた鳥のもも肉2枚に替わる
 
マスターはいつも代金を貰えない
「ホールケーキと素揚げ2枚とか分が悪すぎる 金くれよな」悲しい発言と共にマスターはケーキを渡しに行く デリバリーまでするなんて至れり尽くせりだ
不平等なトレードは二人の間で頻繁におこなわれている

今日の午後 お肉屋さんT君が来店した カカオパフェとアイスコーヒーを注文し店内で涼んでいた

そしてドキドキのお会計タイム
「おう 今日はコレでエエやろ」
お肉屋さんT君はチューブ状の物を二本マスターに手渡した
「お前 切れ痔やから必要やろ」そしてゆっくりと立ち上がり 箱バンに乗り込み去っていった

マスターがパフェとコーヒー代金の代わりに貰った物 それは痔の薬 ボラギノールだった
悲しいかなボラギノール二本の内 一つは使い古しだった

ひた隠していた持病の切れ痔を女子スタッフ達に知られ 代金の代わりの使い古しのボラギノールを手に持ったマスターは流石に愚痴も溢せないくらいに落ち込んでいた
ボラギノールを握りしめたマスターの横顔は悲壮感たっぷりだ

財布を落とした時の様な落ち込みっぷりのマスターを見て僕は大笑いした

このカフェでは石器時代より野蛮な物々交換が度々おこなわれている もはや名物