2016年8月11日木曜日

痔のボラギニスト


先週の日曜日 店のマスターの知り合い お肉屋さんT君が来店した
お肉屋さんT君はヤンキー達のヒエラルキーの上位に位置する この田舎町の荒くれ者だ

お肉屋さんT君は三重県に旅行に行ってきたらしく お土産を持ってきた モーニングセットを食べながらマスターに「海鮮せんべい」を手渡した ちなみにマスターは煎餅とおかきが嫌いだ

T君はフォカッチャのサンドウィッチをたいらげ煙草を吸いながら珈琲を飲み干しギラリ鋭い目をして言った
「土産あげたから 今日はモーニング代いらんやろ」
ゆっくりと立ち上がり 配達用の箱バンに乗り込み去っていった

そして お肉屋さんの箱バンが駐車場から消え去った瞬間 マスターの怒涛の悪口 陰口 愚痴が溢れ出す
激しく愚痴るくらいなら 代金貰えば良いのに と思うかもしれないがマスターはヤンキーヒエラルキーの下層に属している為に上層に属するお肉屋さんT君にはお利口さんな首振りスタイルで居なければならない

お土産とはそういう風に渡すものではないですよね 嫌いな煎餅とモーニング代金との交換だ 新しいスタイルのお土産の渡し方を目の当たりにし怒れるマスターの横で僕は爆笑していた

マスターは毎年クリスマスにイチゴのケーキを焼く それは異性への手作りプレゼントではなくお肉屋さんTくんの為だ
忙しいクリスマスに作ったホールケーキはお肉屋さんT君の手に渡り 素揚げされた鳥のもも肉2枚に替わる
 
マスターはいつも代金を貰えない
「ホールケーキと素揚げ2枚とか分が悪すぎる 金くれよな」悲しい発言と共にマスターはケーキを渡しに行く デリバリーまでするなんて至れり尽くせりだ
不平等なトレードは二人の間で頻繁におこなわれている

今日の午後 お肉屋さんT君が来店した カカオパフェとアイスコーヒーを注文し店内で涼んでいた

そしてドキドキのお会計タイム
「おう 今日はコレでエエやろ」
お肉屋さんT君はチューブ状の物を二本マスターに手渡した
「お前 切れ痔やから必要やろ」そしてゆっくりと立ち上がり 箱バンに乗り込み去っていった

マスターがパフェとコーヒー代金の代わりに貰った物 それは痔の薬 ボラギノールだった
悲しいかなボラギノール二本の内 一つは使い古しだった

ひた隠していた持病の切れ痔を女子スタッフ達に知られ 代金の代わりの使い古しのボラギノールを手に持ったマスターは流石に愚痴も溢せないくらいに落ち込んでいた
ボラギノールを握りしめたマスターの横顔は悲壮感たっぷりだ

財布を落とした時の様な落ち込みっぷりのマスターを見て僕は大笑いした

このカフェでは石器時代より野蛮な物々交換が度々おこなわれている もはや名物

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