2017年1月30日月曜日

拝啓 美輪明宏様



お好み焼きにたこ焼き 関西人なら好きで当たり前なイメージがあるかも知れないが 僕は「粉もん」といわれる食べ物が苦手だったりする
近所のお好み焼き屋さんに行くのは知り合いとの付き合いで行くくらいだ
そのお好み焼き屋にめったに行かないのは「粉もん」が苦手というのもあるが もう一つ理由があった 常連客に宇野さんがいるからだ
宇野さんは小柄でアルコール中毒のおっさんだ 宇野さんは真っ赤なお鼻のアル中さんで いつもみんなの厄介者 酔っ払い アルバイトのオバサンに下品な言葉を投げかけ 店内で豪快に股間を露出する
ちっさいおっさんの小さいペニスを見ながら 誰も食事を食べたがるはずはなく 宇野さんのせいで客足が遠退いていった
股間を放り出そうとする宇野さんに毎回 店のママは激怒し怒鳴りつけ宇野さんを出入り禁止にしていた
宇野さんはママの優しさにつけ込み 出禁にされても無理やり店に訪れていた
ママは宇野さんの事を半ば諦め
「あれは妖精や 見えんふりせな仕方ないわ」と嘆いていた

そして僕らも騒ぐ宇野の妖精を見えないふりをしていた
でもやはり いたずら妖精が見える人もいるらしく 店内でいたずらが過ぎた宇野の妖精は見える人に退治され 駐車場横の側溝に口から血を流し挟まっていた時もある

「宇野さんはね あの年になっても独り身やし親も亡くなって寂しいんやろね」優しいママは宇野の妖精に甘かった その優しにつけ込む いたずら妖精宇野

僕は知っている 少し離れた居酒屋で妖精宇野とばったりと出会った時 強面の大将に臆して騒がず露出もせずに行儀よく熱燗を呑んでいた事を 人を選んでいたずらをするカス妖精宇野 アル中オベロン

僕の妖精に対してイメージは果てしなくダーティなものになった


勤務先のカフェに行くと女子スタッフ アイちゃんは「悩み事があります」と僕に言った アイちゃんは目の鋭いキレイな顔をした主婦だ
夫婦仲も良いはずで子育ても何も問題あるはずもないのに 何に悩んでいるのだろうと思った

アイちゃんを悩ませるもの それは「美輪明宏」稀代のシャンソン歌手が田舎町の主婦を悩ませていた
事の発端はアイちゃんの小学生になる子供の発言からだった
「あの人なに?」
好奇心旺盛な子供はテレビに映った オレンジ色の長髪でドレスを着た人を指差し言った
テレビに映ったその人は美輪明宏さんだった

アイちゃんは困った 「この人だれ?」と訊かれたなら「美輪明宏さんだよ」と答えれたかも知れないが 「この人なに?」と訊かれたので説明に困ったそうだ

これは難しい 僕の中で三輪さんは雌雄を凌駕した存在と認識しているし 隠れ三輪さんファンな僕は映画「黒蜥蜴」も観たし書籍「紫の履歴書」も読破しているが 三輪さんの事を語るのは難しい
それがまして小学生の子供に三輪さんの存在を説明するとなると不可能に近い

「僕は三輪さんの事を子供に語るのは無理かな アイちゃんは子供になんて言った?」
「私もう子供も小さいんで三輪さんの事 あれは妖精 人ではなくて妖精と教えました」
ええっ なんてスピリチュアルな答えだ 雌雄を凌駕なんて小さい 三輪さんは人ではなくなっていた

小さい頃の母親の教えは絶対 アイちゃんの子供は三輪さんの事を妖精と思っているそうだ

三輪さんの存在が田舎町の主婦を悩ませ 幼い子供に妖精と認知されている
三輪さんは妖精 でも宇野の妖精枠 その妖精の括りに入れるのは 違うと思う

「美輪明宏」かの御方を言葉で表す事は難しい
その存在を明確に説明出来る人はこの世の中にいるのだろうか 

2017年1月29日日曜日

最後のランチ



世の中は高齢化社会 世間から隔離され厨房で労働とダンスしかしていない僕にも そう感じる時がある
勤務先のカフェに年配の方がよく来店するし そして介護施設や老人ホームの月に数回ある外食イベントによく店を使ってくれる回数が増えたからだ
お昼のランチは老人ホームや介護施設の方達で客席が埋まる時もあ

顔に似合わず優しく僕は施設の方のリクエストに応え 特別に生姜焼きやサバの味噌煮の定食を作っていた
極たまに老人ホームの利用者の方がご飯を食べ終えると体調を崩す時がある
僕は「何か悪い物を提供したのかな」「アレルギーが有ったのか」等と 心配していたのだけれど
ペルパーさんが言うには持病の関係やご飯を食べ終わると体調を崩す方も多いそうだ
ヘルパーさんがいる時は良いけれど個人で来られている高齢者の方が倒れると救急車を呼ばなければならない時が有る

田舎町の高齢化社会 このカフェは年に数回 救急車が訪れる

新年も明け 寒さ残る昨日 老夫婦が来店した 海老フライランチと日替わりランチを食べて 食後にカプチーノを飲む 洒落た夫婦だった
会計の時に事件は起こった 老夫婦の旦那がうずくまり倒れた
動かない旦那 焦りを隠せない婦人 心配そうに見守る女子スタッフ そして怪訝な顔をしたマスターは
「年寄り来たら これが有るから嫌なんよな」と 下衆発言をしながら救急車を呼んだ

そんな時 一人の男が立ち上がった それは常連客の西岡さんだ
アイロンパーマに薄茶色の眼鏡をかけた風体の悪いタクシードライバーだ
彼は倒れた老人を介抱する為に立ち上がったヒーロー ではなくて関西で言う「いっちょかみ」 物事に首を突っ込みたいだけの男

西岡さんはマスターを指差し吠えた
「なにをボーっと突っ立つとんや!介抱せんかい!人工呼吸しろ!
ええっ 人工呼吸とな 倒れた老人は心肺停止状態なのか
そんな事は窓ぎわの席から立って吠えている西岡さんにわかるわけがない アイパー西岡さんの脳ミソはビー玉くらいなので介抱イコール人工呼吸なのだろう

「年明けからジジイとキスは無理や!救急車呼んだからそれでいいやろ」
マスターが吠えた かと思ったが西岡さんの極道じみた風貌に威圧され トーンが尻すぼみになった  
出会い系で出会ったクリーチャーにも平気でディープキス出来るマスターでも老人とのMOUTH To MOUTHは無理らしい

「お前!人工呼吸とキスは違うやろ!人の命なんと思っとるんや!
人命を引き合いに西岡さんは吠え続ける デミグラスソースをオムライスにかけながら 生死を語るなら お前が介抱すれば良いと僕は思った
「キスも人工呼吸も何も ジジイとは無理ですよ」
西岡さんに威圧されマスターの発言は敬語になっていた
人工呼吸とキスのせめぎ合い アホな正義感と唇の貞操の言い争いの最中 救急車が到着し旦那は病院へと搬送されていった
わめき散らしたチンピラドライバーはスッキリとした顔で店を出て「あと少しいわれてたらボコボコにしてた」とマスターの負け惜しみのセリフが厨房に聞こえる

店内で体調が悪くなり ヘルパーさんに介抱される利用者の方や救急車で運ばれた老人の方は 後日 来店して「お騒がせしました あの後 体調が戻りました」や「すいませんでした 無事に快気しました」などの報告してくれる

でも報告の無い方もいる 無事に回復してるかもしれないし 高齢者なのでそのまま天国へ行かれたのかもしれない

もし天に召され 天国旅行に旅立った方がいるならば 最終の昼餐が穢れとエロスで満たされた僕の手料理だと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだ

まぁ 僕は地獄旅行でしょうな