2017年4月9日日曜日

カミングアウト レイジビヨンド



僕は意外にも知り合いからカミングアウトされる事が多い
「真面目なサラリーマンの鬱病」「清楚な女性のリストカット事情」
「明るい女の娘の生まれの不幸」
「文学青年のバイセクシャル」など突発的に切り出される
突然の重い告白に僕の心のキャパシティは軽くオーバー 聞くだけでうまく励ます事も出来ないでいた
見かけによらずに僕のハートはおセンチですからね


僕にもまだピュアな心が残っていた高校一年生の時 放課後にコンビニでたまるカスの群れの中にいた
少し背伸びをして無糖の珈琲を飲んでいる友人のキョウスケは目の前に流れるドブ川を見つめながら僕に言った

「俺の親父はパイプカットしてあるんや」

激甘UCCの缶コーヒーを飲んでいたチェリーボーイの僕でもパイプカットの意味は知っでいる 幼い僕のパイプカットのイメージは悪徳政治家やドスケベな大地主だった
突然コイツは何故に親父のパイプカットを僕に言ったのだろうか 父親のパイプカット 精管結紮術
そのカミングアウトの疑問や衝撃 僕は今でも覚えている

「絶対に誰にも言うなよ」キョウスケは言った
絶対に言うなよは皆に知れ渡るフラグ 僕はわかったと頷き 高性能スピーカーの様に言いふらした

それから暫くキョウスケは挨拶の代わりにキットカット!のイントネーションでパイプカット!と言われていた

パイプカットお父さんは渋いダンディな顔立ちをしていた 色男ゆえに他で遺伝子を残さない様にパイプカットをしたのかは知らないが 子供達は男前な容姿とスケベ心を受け継いでいた
キョウスケは三人兄弟の次男で長男 三男とも男前で田舎町で少し有名だった
3兄弟はいい感じにグレて町工場に就職しヤンキーテイストを残しつつ田舎町に落ち着いた



先日 行きつけの和食屋の駐車場 ほろ酔い気分で代行タクシーを待っている時に街灯の下 スマートフォンを片手に大声でがなり煙草を投げ捨てる素行の悪い男がいた
パンチパーマでハンティングワールドのサイドバック 細い口髭で黒のスーツにノーネクタイ 昭和のチンピラのテンプレートな男

パンチパーマなんて10年ぶりくらいに見たなあ とジロジロ見ているとパンチのおっさんとガンのくれあい 飛ばしあいになりそうなので僕は目を落とした 面倒事はゴメンだと思っていると パンチのおっさんがギラギラの金ネックを光らせなが話しかけて来
「おう!ヴィアン!久しぶりやないか!」
パンチのおっさんをよく見ると友人キョウスケの兄 タイキ君だった 僕は驚いた
「うわぁタイキ君なにがあったんで?昭和のチンピラみたいな格好して」
パーラメントに火をつけてタイキ君は言う
「俺はなったんよ ヤクザにな」
コレはカミングアウトでもない 大体見たらわかった 30歳を越えてからの極道デビュー タイキ君はそこまでは不良じゃなかったのに知らぬ間に仁義なき道に進んで  
いた
「警察に逮捕とかされたら身内悲しむで」僕はもちろん心配するフリをして訊いた
「ヴィアン 俺はな考えてヤクザになったんや それくらいわかるよバカヤロー!」
北野映画に憧れた様な台詞をタイキ君は睨みをきかし言ったが後々聞くとタイキ君が長年努めた町工場を辞めて極道の世界に入った時 嫁は悲しみ子供を連れて家を出て一家離散したそうだ 
離婚したかったの?何をどう考えてアウトローデビューしたのかはわからねぇよ!バカヤロー!

「おっ!迎えが来たから行くわ!またなヴィアン!」
煙草を投げ捨てタイキ君は黒塗りのセンチュリーに乗り込んだ
型遅れした古びれた車 背伸びしてくたびれた高級車に乗らなくてもいいのにな と僕は悲しい気分になっていると運転手の男が僕に向かって会釈をした
運転手の男をよく見るとそれは友人キョウスケの弟 テツオだった
数年会わないうちに3兄弟の2人がヤクザになっていた
兄弟が暴力団員 厳しすぎる
身内が反社会的勢力は辛い いや一般市民の僕達にとっても怖いし辛い

あぁ 渋いダンディなお父さんがパイプカットをもっと早くに施術してくれていたならば 反社会的勢力が1人生まれることはなかったのに カットォ!カットォ!

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